『長い墓標の列』ものがたり
作、福田善之。初出は『新日本文学』1957年7-8月号。「河合栄治郎事件」「平賀粛学」などと言われる実際の事件をモチーフにしたフィクション。
舞台は1938年の日本。大学教授の山名は、自身の理想主義的自由主義という思想に基づき、日本そして大学の多数派を占めつつある全体主義にあらがっていた。山名は著書の発禁を受け強い辞職勧告を告げられるが、城崎たち信頼する教え子の協力を支えに、言論による戦争の回避への戦いを続ける。やがて、山名は大学当局に辞職させられるが、共に辞表を提出した城崎が山名の元を訪れ、大学に戻ると告げる。山名の理想主義と城崎の理論が激しく対立するクライマックスを経て、山名の奮闘もむなしく、日本は太平洋戦争に突入する。
「明後日の方向」とは
「ふつうの、すごい演劇」をつくりたいだけなのに、難しい。演劇公演にはお金がかかるし、いつも時間がない。なにより未来に希望がないから続けられないし、止めたら関わりを持ちたくなくなる。
ならば「目的地」は一回忘れて「旅」に出てみよう。アーティストが輪になって、もっとお金も時間も芸術的にも自由で、なにより安全で希望が持てるような「方向」を探す。そぼくな理想主義だと笑う人には笑わせておけばいい。とはいえ根を詰めると続かないのでのびのび取り組んで行こう。上演のための創作から、演劇の可能性を解放しよう、豊かな創作の結果として上演をしよう。実験と失敗の連続の先に、どこかにたどり着く、かもしれない。
参考リンク:黒澤世莉インタビュー|明後日の方向ってなあに?
上記は2021年、行き先を探す公演『赤目』の際に書いた文章だ。実際に公演を経て、理想主義を掲げても、現実的にそれを「演劇公演」にするためには、一筋縄ではいかないことがしみじみ骨身に染みた。たとえば、子育てや地域の俳優への配慮は、そうでないひとにとっては、マイナスの要因に感じられることもあると分かった。理想主義は、現実の中では周囲の人間を傷つけるリスクと隣り合わせだと言うことも再確認した。ハラスメント防止の対策も完全とはほど遠いし、他にもやりたいことを実践するにはお金も時間も人間も不足している。振り返れば失敗ばかりが思い出される。いまもまさに、くじけそうな状況になっている。
では、なぜまた行き先を探す公演をやるのか? それは、続けていれば失敗は経験になり、前より少し良く出来ると考えているからだ。結論の出ないことや、白黒つかない状況が続く。それならば、むしろまとまらない思索、矛盾した現実、そういったものを引き受けて、ゆっくり進んでいこう。前回も、失敗も多かったけど、忘れかけていた演劇の魅力を他者と共有し味わうことも出来た。あきらめることは、いつでもできる。演劇が社会を捉え直せるかもしれない可能性と、単純に演劇をするよろこびを、もう少し大きな輪に育てていこう。もうしばらく、その気持ちが持てる間は、ね。
「明後日の方向」は、ある有志が集い試行錯誤しているいまだに不定型な、公演を目的としない演劇サークルです。
もうひとつ、「20世紀の戯曲に取組み、日本が戦争に向かった本質的な原因を探る」という軸もありますが、これははまた別の機会に。
黒澤世莉
行き先を探すための公演#2の特徴
①行き先を探すための公演って?
「明後日の方向」のやりたいことを達成するには時間が必要です。理想を言えば、長い時間をかけた稽古、全国各地からの参加者、子育てや家庭環境に関わらない参加しやすさ、そういうことを担保したいし、良い環境でものづくりをしたい。
今回は、短い期間で、東京静岡の二拠点のメンバーでのものづくりになっています。
でも、そういう中でも、きっと「明後日の方向」にしかできない、「明後日の方向」がやる価値があること、のある公演が出来ると考えています。課題を解決しながら時間をかけたものづくりを続けるために、実験しながらいま出来ることを盛り込む公演が「行き先を探すための公演」です。
②プレビュー公演(ワークインプログレス、以下WIP)てなに?
観客として客席に座っていただき、作品創作の過程を「プレビュー公演」として体験できます。演出家が俳優にフィードバックを返すところや、照明や音楽、ムーブメントとあわせていく過程も公開する予定です。
主宰の黒澤は「創作過程のスリリングさは、パッケージ化された公演よりも面白い」と言っています。ただ、最初から最後まで作り込まれた上演を観られる、というチケットではありませんので、その点はご理解くださいませ。
③座長とは?
風通しの良い公演準備をするため、プロデューサーや演出家ではない立場で企画の軸となる、俳優たちのキャプテン的な役割として座長制度を設けました。なぜかというと、明後日の方向が持続可能な運動になるために、権威や権力は分散させた方がいいと考えたからです。企画発起人や、プロデューサー、演出家に権力が集中しすぎて、それによってハラスメントのリスクが上がったりもしますよね。一方で、主催者に運営の負担や責任が偏ってしまい、人材が潰れるリスクも減らせるかも。
今回は、辻村優子さんが担います。
勝手に福田善之フェス2022(仮)
今回オンライン講座をお願いした川口典成さんの率いるドナルカ・パッカーンも、福田善之の戯曲を上演されます。
そして、本公演の座長・辻村優子さんも出演されます。
ドナルカ・パッカーン『オッペケペ』
12月27日〜31日
萬劇場
辻村優子さんは、『長い墓標の列』『オッペケペ』の、福田善之2作品に出演されることを、俳優の目線で野心的に取り組む「パン種プロジェクト(仮)」という実験をされます。
というわけで、明後日の方向とドナルカ・パッカーンの公演をハシゴ観劇いただいた 方には、スペシャルグッズを進呈します。『長い墓標の列』半券をお持ちになって 『オッペケペ』をご覧ください。グッズ詳細は未定です!
2本観ると、きっと面白いと思います。